これは、バブルなのか ①

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アナリストの友人と、議論をしました。
話題は、「いま日本はバブルなのか」、そして「金融緩和による、過剰な投融資オーバーファイナンスが、バブルを生んでいないか」。
この一年ほど、彼とは、会うたびにこの議論になります。

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友人「バブルって、定義はいろいろだが、お前はどう思ってるんだ。」

うん、『現実の実態ファンダメンタル』と、『価格』との差なんじゃないかな。
本当はたいして実態は良くないモノに、多くの人が高い価格をつけて投資していれば、それはバブルだということになる。
それでいつまでも、みんなハッピーならそれでいいのだけど。
でも世界恐慌からリーマンショックに至るまで、歴史をみると、必ずその虚像は壊れる。

友人「そうだよな。歴史上、必ずだれか『じつは実態はポンカスじゃねえか』と気づくやつが出てくる。それが波及して、みんな不安に駆られて、資金を一斉にひきあげる。たいてい、投資の資金は、よそから調達してるから、資金の引き上げが連鎖的に波及して、一気に信用収縮クレジットクランチが起こる…。」

バブルが実態と価格との差だとしたら、お前さんの仕事分野の上場企業のほうは、まだそんなに株価にバブル感はないんじゃないか?

「うん、日本の上場企業は、まあ業績は好調だし、きちんと利益を稼いでる。大企業の景況感も改善がつづいてるし。株価はまだ適正水準だろうな。でも俺が最近おかしいと思ってるのは、中小企業とかベンチャー企業、つまり非上場企業のほうだ。そっちはお前の専門だろ。」

うん、正直、どこかおかしいと思う。
ベンチャー投資と、非上場の中小企業への投資プライベートエクイティのほうは、完全にバブルの様相じゃないかな。

「つまり、実態はそれほど良くないのに、投資されるケースが増えてるってことか。」

そう。ちなみに不動産も、出口がなさそうなバブル案件が増えてるから、結局、いま日本では、伝統的な代替的投資手法オルタネイティブスの全般が、バブルなんだと思う。

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「ベンチャーの投資案件のバブルって、どんな感じだ?」

たとえば、まだふわっとしたビジネスコンセプトしかないベンチャー企業とか、まだビジネスモデルもプロダクトもできてないじゃん、みたいなステージのベンチャー企業でも、何十億円とか、そのビジネスでそんなに要らないだろ、くらいの大型の資金調達をしてたりする。

「たしかにそんなニュース多いよな。でも、その会社が価値を生むかどうかなんて、どうやってわかるんだ?」

簡単だよ。
会社の価値ってのは、利益であり、おカネを生む力だろ。
だって、マルチプルにせよ、NPV法にせよ、どんな企業価値評価バリュエーションの手法だって、計算の材料は、その会社が生む利益の額なんだから。

そのおカネを生む力ってのは、イコール、ビジネスモデルだ。
ビジネスモデルがどれだけユニークで強くて、そしてそれが会社の仕組みにどう落とし込まれてるか?が企業価値の源泉であって、経営者の力量は、それを生む巧拙にある。

「ふんふん」

だから、既にビジネスモデルができてる、或いは、ビジネスモデルの設計図ができてる、という段階なら、その会社には価値はあるだろう。
あるいは、その起業家の人生をみて、こいつは裸一貫でも仕組みをつくれるぞ、と思える人物なら、やっぱり価値はあるだろう。

でも、フィンテックでこれこれのサービスでビジネスをやります、みたいにふわっとしたコンセプトしかない段階なら、実態上、おカネを生む可能性がまだゼロなんだから、たいして価値はないし、高い価値をつけるべきじゃない。
つけてるとしたら、それは既に『バブル』の入り口なんだ。

「でもここ数年、そういう段階的な育成プロセスをすっ飛ばしたベンチャーが多いんじゃないか?」

うん、そう思う。
まだビジネスコンセプトとか志だけで、ビジネスモデルのビの字も作りきれてない会社…、つまり、おカネを生むかどうかまだわからないステージの会社が、何億円の調達に成功!なんて言ってるケースが増えてる。
でもそれって、投資家にとっては、ヤバい賭けなんだよ。

初期段階から研究開発資金が必要な、バイオとか、ロボティクスなら、いきなり大型ファイナンスは理解できるんだけど。でもIT系の場合なら、研究開発費イコールエンジニアの人件費なんだから、そんな、いきなり何億円も必要ない。

まだビジネスコンセプトの段階なら、投資家は、まず小額投資でスタートして、起業家にビジネスモデルを練らせて、経営力を鍛えないといけないんだよ。それもVCの仕事なんだから。
VCがどうしてもその起業家に惚れ込んでるなら、キャピタルコールでデカい枠だけとるとか、契約実務上、いくらでもやり方はあるはずだ。

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「でも実際は、そういうマイルストーン投資になってない。どうしてなんだろうな?」

やっぱり原因は、金融緩和だよ。
特に2013年以降の第4次ゼロ金利、そして2016年からのマイナス金利が、強烈に過剰な投融資オーバーファイナンスを生み始めてる。

社会におカネが余って、ジャブジャブになって、VCファンドにおカネが集まり過ぎてるんだ。第4次金融緩和が始まったあたりから、自社の好調な株価を背景にコーポレートベンチャーキャピタルCVC事業を始める上場企業が増え始めたし、国内のVCファンドの組成額も、2015年あたりから、急激に倍増してる。

ファンドの立場からすると、おカネを余らせると、ファンドの出資者LPに怒られちゃうから、たくさん投資せざるを得ない。かといって、急にリスクマネーが増えたって、ベンチャーも起業家も急には増えないし、世の中に数は限られてる。

だから、ベンチャー企業側の『売り手市場』になっちゃって。
マイルストーン投資とか、まずスモールスタートでいきましょう、とかダルい事をいうVCは門前払いされちゃう。
そして、ビジネスコンセプトとか、起業家の来歴がピカピカだとか、少しでもよさげなフレイバーのする案件なら、VCが集中しちゃう。

さらに、証券市場の株価もホットだから、企業価値評価バリュエーションに使うマルチプルの倍率も高くなる。
つまり、まだ業績がゼロとか、大してよくない段階から、高い価値評価がつく。
結果的に、まだおカネを生むかどうかもわからない段階から、何十億円も集まっちゃう。

「お前、再建屋ターンアラウンダーのくせして、ベンチャーも語るんだな」

事業再生の仕事って、ベンチャー企業も対象だからね。
会社が悪くなっていくプロセスは、どんな業界でも一緒だよ。だから、会社を良くする方法もわかるんだ。
それに、いまのベンチャー業界は、80年代バブルが生まれた背景と似ていて、興味深い。

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「でも、バブルっていう表現を使うってことは、まだほかに問題はあるのか?」

うん、今みたいに、シードでいきなり何億円も調達できる時代ってのは、まあ悪い事じゃない。不健康じゃないかな・ぐらいだと思う。
ただ問題は、『調達したあと』だよ。おカネの使い方の問題だ。経営のセンスの問題だよ。

「どういうことだ?」

資金調達がイージーになったから、ベンチャー企業側が甘く考える風潮になり始めてると思う。信用調査会社筋によれば、せっかくVCから集めた資金を、研究開発に十分回さず、無駄なコストで食いつぶしてるベンチャー企業もあるようだ。なかには、ほとんど投資詐欺みたいなケースも出てきてるよ。

たとえば、あるベンチャー企業は、数十億円の調達に成功したが、その資金を研究開発に十分回してこなかったので、実際には、製品の性能が不十分だ。なのに、VCや取引先、メディアの取材に対しては、あたかも市販可能な性能であるかのようにPRしてる。
9月に新製品のプレスリリースを予定してるのだけど、性能がまったく伴わないので、化けの皮がそろそろはがれるんじゃないか、と言われてるよ。

「なんじゃそりゃ…、その実情を知ったら、VCは激怒じゃ済まないな。そいつらって、調達したカネを何に使ってるんだ?」

よく見聞きするのは、社長自身の役員報酬とか、取引先やコンサルタント・オフィスの賃借料などの支払いを経由して経営陣のポケットに入れる、あとは接待交際費・会議費と称する、自分たちのための飲み食いだよ。
以前、あるベンチャーで、営業利益が赤字なのに、社長が毎週六本木のキャバクラに通って、さらに自宅マンションの家賃を、会社の資金で支払ってるのを見て幻滅したことがあったけど。
そういうケースって、他でもちらちら見聞きする。
同年代のベンチャーキャピタリストやエンジニアの友人は、「最近の起業家は、おカネの使い方が変になってる」って言ってるよ。

いつまで経っても、投資家からの資金ミルクだのみで、自力でおカネを稼ぐ仕組みを作りきれないベンチャー企業は、こういった経営体質がある、と思ったほうがいいのかもしれない。

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「問題は根深いな…。総合的にみて、やっぱりバブルなんじゃないか?」

うん。VCが投資時につけた株価と、会社の現在の姿とに乖離が大きなケースが増えてるから、これって、もうしばらくすると、不良資産ディストレスト・アセットの群れを生むと思うよ。

「IPOできないってことか?」

そう。ビジネスモデルができてない、イコール収益の再現性がないってことだから、そのレベルのベンチャーだとIPOなんてできるわけない。
IPO対策の基本は、まず業績、つまり利益と売上なんだから。

「…でも、IPOできないとなると、VCにとっては、出口エグジットがないよな、死活問題じゃないか?」

そこなんだよ。出口のないベンチャー企業リビング・デッドが増えていると思う。
先日、ベテランのベンチャーキャピタリストと話したら、まったく同感だと言ってたよ。かつてのITバブルを思い出す、とも。

「まあでも、日本国内のベンチャー投資額は、年間1千億円くらいなんだろ。これが全部ポンカスに化けたとしても、マクロ経済への影響は軽微じゃないか?」

まあ、マクロ的にはそうなんだろうね。
VCファンドには運用期間があるから、次のファンドに引き継げないくらい業績が低迷しているベンチャー企業は、出口のないベンチャー企業リビング・デッドとして、セカンダリ業者に払い下げられて、一件落着なんだろうな。

でも、いま起きてることって、なんだか順番が逆な気がする。

「順番が逆?」

だって、ほんらい株価って、業績が良いから、あるいは良くなりそうだから、上がるものだろ。
そこで、良いベンチャーと悪いベンチャーとの選別がされるわけだ。
それが、ただVCファンドにマネーが余ってるから、或いは証券市場がホットなお蔭でマルチプルが良いから、株価が上がるってのは、順番が逆な気がする。

「金融緩和の根拠である、インフレターゲット理論自体が、そこの順番が逆だからな」

そうだよな。
結局、アメリカとか中国みたいな、富が偏在してる社会のマネをしようとし過ぎなんだよ。
ああいう資本が偏在してる社会だと、思い切ったリスクマネーの供給者が登場できるけど、日本という社会は、社会構造がまったく違う。

日本みたいな、サラリーマン型のVCが中心の社会で、こんなに短期間にリスクマネーの提供が増えると、いったん冷える時も、各社横並びで、一気にリスクマネーの供給が冷える可能性が高い。いまベンチャー投資で起きているバブルも、急激に崩壊する可能性があるということだ。

でもなんだか、軽佻浮薄な風潮だと思う。
僕には、こんな経済風潮が、日本の国益に資するとは、とうてい思えない。

たかだか十数年前のデフレ不況や、9年前のリーマンショックの頃は、たった5千万円の運転資金が調達できなくて、倒産していった中小企業がゴマンとあった。
今は、赤字を垂れ流して、社長が毎晩六本木で飲み歩いてるベンチャーが、VCから何億円も調達してる。
これって、おかしくないか?
ここ数年で、そんなに日本の実体経済ファンダメンタルズって良くなったか?

いろんな再生企業のケースを思い出すと、かつて倒産していった企業やあの方たちが、最近のふわあっとしたベンチャーと比較して、そんなに競争力や収益力が劣っていたとか、雇用の受け皿という意味で劣っていたとか、とてもそんな風には思えないんだよ。
ただ、社会にリスクマネーの供給がなくて、それで倒産した。
それだけの理由。
マクロの動向をふまえて、ミクロの個別のディールを思い出すと、そんな風に感じる。それがとても理不尽に思える。

「まあ、その辺は、俺も社会人としてスタートした頃は、不良債権の仕事してたから、よくわかるよ」

そうか、ありがとう。
けっきょく、金融緩和で社会にマネーが供給されても、あの頃に自分がなんとか良くなってほしかった業界の方たちは、今でもあんまり景気は良くないままだ。
いま供給されたマネーも、国債を裏付けにしている以上、いつまでもマネーが供給できるわけじゃない。
金融緩和でせっかく得たマネーを、どう活きガネにするか。
経営や金融にたずさわる人間として、その中で自分たちが現場の仕事を通じてなにができるか、我々の世代が、考えないといけないんだろうな。

(バブルをめぐる議論は、まだまだつづきます。)

HOPEキャピタル 河﨑晋太郎
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